高橋和徳税理士事務所が毎月お送りするレポートです。
事務所通信
令和1年7月 Vol.85
■三度目の日本
故堺屋太一さんの「団塊の後 三度目の日本」という本を読みました。堺屋太一さんは通産官僚、経企庁長官、作家などで有名な方です。「団塊の世代」という言葉を作った方としても知られています。ときは2025年、オリンピックの後の日本を想像した小説です。オリンピック後の不況を予測する声はありますが、それだけではなく構造的な国の危機も予測され、明治維新、戦後の復興に続く3度目の改革を促す内容です。
堺屋さんはご自身が官僚出身なだけに官僚主導社会への警笛をならしながら、ご自身の思いを小説にして日本の復興を願っておられたのです。道州制がその処方箋の一つになっています。官僚主導、東京への一極集中の是正です。地方に税収が直接落ちるようにして地方の権限強化で活性化を図るような意図です。面白いのは昔のような密室での会議ではなくクライマックスでのテレビ大討論というオープンな会議で方向を決めていくという流れです。
もちろん背景には日本の現状への危機感があります。少子高齢化、国のGDPの何倍もの借金など出口が見えないなか3度目の改革が必要というストーリーです。
財務省の資料で国の財政を家計に例えているコラムがあります。それによると給料30万円に対し生活費が38万円で過去の借入の利払いと返済に12万円必要なため、毎月17万円を借入しているとのことでした。ローン残高は5379万円だそうです。給料を全額借入金の返済にあてても利息なしで15年かかる計算です。ほとんど破綻しています。また昭和の終わりごろには国の歳入・歳出も60兆円だったのが平成の終わりには歳入は同じ60兆円に対し、歳出は1.5倍の100兆円です。
平成のはじめのバブル崩壊時には無責任な景気対策議論が多かったことを記憶している方もいらっしゃると思います。私も当時財政学の勉強を少ししておりマクロ経済政策の限界について研究して論文を書いたことがあります。仮説として公共投資が経済政策として有効ではないという思いがありましたが、昭和のデータに基づくと公共投資が経済対策として有効な結論になってしまいました。過去データに基づく回帰分析の悪い点ですが、政治のほうでも人気取りのために過大な財政政策をしてしまい現代のとんでもない国の借金に至ったという印象です。
このような状況にもかかわらず高速道路拡張やオリンピック関連の箱もの投資などを続けているのです。またよくわからない助成金や補助金もなくなりません。
そろそろ考え方の根本的な変革が必要なようです。国は家計や会社ではありえない次世代への借金の先送りを続けていますが、国が借金を返済するには国民の貯蓄を吸い上げるしか方法がないというような近未来すら想像できてしまい恐ろしいです。